インプラント治療が“怖い”という方は、「歯肉を切開」したり「骨をドリルで削る」などの行為が最も“怖い”と感じるのではないでしょうか。痛みや腫れも不安だけれど、“切る”という行為やドリルで削る音が怖い…。そんな方に向いているのが「切らない」「削らない」インプラント治療です。ここでは、インプラント治療のなかでも身体の負担が少ない方法を紹介します。
フラップレス手術とは、「歯肉を切開せずに」インプラント埋入をおこなう手術方法です。通常のインプラント埋入手術ではメスを使用して歯肉を切開する必要がありますが、フラップレス手術では歯肉に小さな穴を開けてインプラントを埋入します。「無切開・無剥離・無縫合」でおこなえる手術のため、“歯茎を切開するのが怖い”という方に向いています。
フラップレス手術の流れとしては、CT撮影をしたあとコンピューターでインプラントの埋入位置・角度・深さなどを決定し、データをもとにしたガイドテンプレートを作成。手術時はガイドテンプレートを歯茎に装着し、歯肉に小さな穴を開けて埋入をおこないます。
歯肉を切開しないため、手術による傷が少なく、痛みや腫れ・出血が少ないことがメリットとして挙げられます。また、手術時間も短く身体への負担が少ない手術のため、高血圧などの症状を抱えた方でも手術が可能です。骨の状態が良ければ手術当日に仮歯が入れられるため、“歯がない期間がない”ことも大きなメリットといえるでしょう。
手術では歯茎の上にガイドを被せておこなうため、骨を直視することができません。手術をおこなう医師の経験やスキルが問われるため、フラップレス手術に対応できる歯科クリニックは多くありません。また、フラップレス手術は通常の切開手術よりも費用が高いこともデメリットといえるでしょう。
平均で34~53万円ほど。ガイド作成費用として4~8万円加算するクリニックが多いようです。
ガイデッドサージェリー・サージガイドでは、コンピューターガイドを用いてインプラント手術をおこない、症例によっては歯肉を切開しないフラップレス手術が可能です。
治療の流れとしてはまず CT撮影をおこない、3Dシミュレーションソフトでインプラントを埋入する位置や角度・深さを決定します。そのデータをもとにマウスピースのようなテンプレートを作成し、テンプレートを歯茎に装着して埋入をおこないます。
通常の切開手術では、フリーハンドでおこなわれるためインプラントの位置や角度を正確にとらえるのは難しく、手術の成功率を下げる要因になってしまいます。そこでガイドを使用することで埋入ミスを減らし、より正確なインプラント手術を目指しているのです。
CT画像をもとにした患者のあご骨の模型からガイドを作成しますので、より正確な位置にインプラントを埋入することができます。また、手術にかかる時間もガイドを使用しない手術よりも短く、痛みや傷も軽減できるため、身体の負担が少ないことがメリットといえます。
ガイドを使用した手術には医師の高いスキルや経験が必要とされます。そのため対応できるクリニックは多くなく、費用も加算されることがデメリットといえます。
平均で34~53万円ほど。ガイド作成費用として4~8万円加算するクリニックが多いようです。
フラップレス手術やガイデッドサージェリーで用いられるガイドシステム。ガイドシステムにはいくつか種類がありますが、そのなかでも代表的なシステムがノーベルガイドとサージガイドです。ノーベルガイドはノーベルバイオケア社、サージガイドはマティリアライズ社が開発したものです。
大口式(OAM)インプラントとは、骨を「ドリルで削らずに」インプラント埋入をおこなう手術方法です。大口弘医師が開発した手術方法であり、ほとんどドリルを使いません。鍼灸で使用するような細い針から徐々に太い器具に変えていき、最終的に16~20種類もの器具を用いてインプラント埋入のための穴を開けます。“ドリルで削られるのが怖い”という方にも優しい手術方法です。
骨をほとんど削らないため、痛みや腫れ・出血が少なく、手術も1度ですみます。また、骨に負担をかけにくい手術方法であるため、骨幅が不足している・骨が柔らかいなどの理由で切開手術が困難な患者でも適応できることもメリットとして挙げられます。
手術には長い時間を要します。手術をおこなう医師に求められるスキルは高く、大口式(OAM)インプラントに対応できる医師は限られています。また、骨が硬い患者には適応できないこともデメリットといえるでしょう。
平均で33~60万円ほど。通常の切開手術に3~10万円ほど加算されることが多いようです。
抜歯即時とは、抜歯と同時にインプラントを埋入する手術方法です。これまでのインプラント手術では、抜歯をしてから2~3ヵ月ほど期間をあけてインプラント埋入をするのが通常でした。しかし期間をあけることで抜歯した部分の歯肉や骨が痩せてしまい、場合によってはインプラント埋入のために骨を増やす処置をしなければならなかったのです。抜歯即時では、抜歯後の体の治癒機能を利用することでインプラントを安定させるため、抜歯と埋入を同時におこないます。
抜歯からインプラント埋入までの期間がないため、治療にかかる期間が短くなり、身体の負担も減らせることが最大のメリットといえるでしょう。骨の状態が良ければ抜歯・埋入の当日に仮歯を入れられるため、“歯がない期間がない”のも大きなメリットです。
抜歯をおこなわなければならなくなった歯にはいくつか理由がありますが、病巣が大きく治療が見込めない・重度の歯周病であるなどの場合には適応できません。また、インプラントを埋入できるだけの骨が不足している場合も抜歯即時はおこなえません。
平均32~58万円ほど。通常の手術より2~8万円ほど加算されることが多いようです。
抜歯即時荷重は、抜歯・埋入してすぐ仮歯装着をおこなう手術方法。抜歯即時とほぼ変わらない手術内容です。抜歯と同時にインプラントを埋入し、仮歯を装着してすぐに噛める状態にすることで、手術後すぐに軽い食事を摂ることができます。通常の手術では、インプラントを埋入してから仮歯が入るまで3~6ヵ月ほどかかることが多く、歯がない期間は長め。抜歯即時荷重では“歯がない期間が困る”“すぐに食事を楽しみたい”という方に向いています。
抜歯・埋入してすぐ仮歯装着ができるため、“歯がない期間がない”“すぐに食事を楽しめる”“治療期間が短いため体の負担も少ない”ことがメリット。また、抜歯から仮歯装着までの期間がとても短いため、治療期間が短縮できるのも大きなメリットです。
抜歯即時と同様、骨の状態が良くなければ適用できません。骨が柔らかい・インプラントを支えるだけの骨が不足している場合などがこれにあたります。
抜歯即時同様、平均32~58万円ほど。通常の手術より2~8万円ほど加算されることが多いようです。
ピエゾサージェリーは、近年のインプラント治療で注目されている手術器具です。インプラントを埋入するための穴を開けるときに使用するもので、三次元超音波振動を利用して切削部分の長さ・深さを正確にコントロールすることができます。これによって切削時に神経や血管などを傷つけるリスクが大きく減らせ、患者の負担が少ないことが大きな特徴です。
細かい振動で骨を切削するため、歯肉や神経を傷つけず、骨への負担も少なくてすみます。また、削るときの痛みや不快感も少なく、“骨を削られる音が怖い”などの不安がある方にも向いています。
多くの医師から注目を集めているピエゾサージェリーですが、導入している歯科クリニックはいまだに多くありません。また、使用に慣れる必要があるため、医師のピエゾサージェリー使用の経験も必要です。
インプラント治療ではレーザーを使用した切開方法もあります。炭酸ガスや半導体タイプのレーザーなどさまざまですが、そのなかでも「エルビウムヤグレーザー」が注目を集めています。 エルビウムヤグレーザーは“唯一歯を削ることができるレーザー”とされており、水を併用しながら照射することができます。歯の組織を形成する水分に反応し、レーザーを当てると水分が瞬発的に蒸発するため、痛みを感じにくいのも特徴です。
レーザーによる切開では、痛みを感じにくく傷の治りも早いため、身体の負担が少ないメリットがあります。
レーザー切開をおこなっている歯科クリニックは限られています。また、通常のメスを用いた手術よりも多少手術時間が長くなることが挙げられます。